急拡大するASEAN市場 日本企業が攻略するためには?市場動向と参入戦略
成長著しいASEANの化粧品市場は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスですが、国ごとに異なる消費者特性や複雑な法規制が参入の障壁となっています。本記事では、主要国の市場分析からデジタル戦略、J-Beautyの勝機に触れながら、海外進出を成功に導く実践的ロードマップを提示します。
●目次
ASEAN化粧品市場が注目される背景
ASEAN市場は、著しい経済成長と中間所得層の拡大を背景に、化粧品メーカーにとって極めて魅力的なフロンティアとなっています。消費の中心はZ世代をはじめとするデジタルネイティブ層であり、ECやソーシャルコマースを駆使したアプローチが不可欠です。
また、「ハラル」と「クリーンビューティー」という二大トレンドが市場を牽引しており、これに対応することが成功の鍵を握ります。ここでは、ASEAN市場がなぜ今注目されているのか、その背景にある3つの主要な要因を詳しく解説します。
・経済成長に伴い化粧品需要が急拡大している
ASEAN市場は、持続的な経済成長と中間所得層の拡大により、巨大な消費市場として台頭しています。可処分所得の増加が、美容やパーソナルケアといった「自己投資」領域への消費を加速させており、特にスキンケアやメイクアップ製品への関心が高まっています。
アジア太平洋地域のハラル化粧品市場は、今後さらに拡大すると予測するレポートもあり、そのポテンシャルは計り知れません。ハラル認証は、イスラム教徒にとっての宗教的要請であると同時に、製品の安全性と品質を保証する信頼の証として、非イスラム教徒の間でも認知が広がっています。
・デジタルネイティブの世代が消費を牽引している
Z世代を中心とするデジタルネイティブ層が、ASEAN市場の消費の中心的な担い手となっています。彼らはSNSで情報を収集し、オンラインで購入することに慣れ親しんでおり、ベトナムなどではShopeeやLazadaといったECプラットフォームに加え、TikTok Shopを活用したライブコマースでの購入が一般化しています。
このデジタルファーストな消費行動は、D2Cモデルで消費者に直接アプローチする新興ブランドにとって大きなチャンスを意味します。従来の店舗販売に依存せず、デジタルマーケティングを駆使することで、短期間でブランド認知を高めることが可能です。
・「ハラル」と「クリーンビューティー」という二大トレンドの融合
ASEAN市場では、「ハラル」と「クリーンビューティー」という二大トレンドが融合し、新たな市場価値を生み出しています。ハラル認証は、その厳格な基準から、成分の安全性や倫理的な製造背景を重視する「クリーンビューティー」や「エシカル消費」の価値観と深く共鳴します。
ハラル化粧品は、単に自然由来やオーガニックという意味ではなく、成分管理・製造管理の透明性を担保した製品であることが評価されています。宗教的ニーズに限らず、安心・安全を重視する一般消費者からも支持が高まっています。
インドネシアでは2026年10月から化粧品のハラル認証が義務化されますが、これは単なる規制対応ではなく、グローバルなクリーンビューティー市場で競争するための戦略的投資だと捉えることができます。
ASEAN主要3カ国の市場にみられる特徴を比較
ASEANは単一市場ではなく、国ごとに文化や消費者行動、法規制が大きく異なるため、国別の詳細な分析が不可欠です。インドネシアは「ハラル対応」と「BPOM登録」、タイは「ECとインフルエンサー活用」、ベトナムは「ライブコマース」が攻略のキーワードとなります。
各国の参入障壁は主に法規制であり、事前の綿密な調査と信頼できる現地パートナーの選定が成功を左右します。ここでは、特に注目すべき主要3カ国の市場特性と攻略ポイントを比較しながら解説します。
・【インドネシア】巨大なハラル市場とBPOMの壁
インドネシアは2億7000万人を超える人口を抱え、世界最大のハラル化粧品市場を形成しています。2026年10月以降、国内で流通する化粧品にはハラル認証の取得と表示が義務付けられるため、参入企業にとってハラル対応は避けて通れない課題です。
また、医薬品食品監督庁(BPOM)による厳格な製品登録プロセスが必須であり、現地法人または信頼できる輸入代理店の指定が必要となります。
自由販売証明書(CFS)やGMP証明書など、多岐にわたる公証済み書類の提出が求められるため、規制対応とオペレーションを円滑に進める経験豊富な現地パートナーの存在が成功の絶対条件です。
・【タイ】美容大国におけるECとインフルエンサー戦略
タイは美容への関心が高く、高品質なローカルブランド(T-Beauty)も存在する競争の激しい市場です。消費者はトレンドに敏感で、天然由来成分を好み、インフルエンサーのレビューを重視する傾向があります。ECプラットフォーム売上の大部分を占める一方で、美容専門店も強力な販売網を持っています。
食品医薬品局(FDA)への製品届出、厳格なタイ語ラベル表示義務、そして頻繁に更新される禁止成分リストの遵守が法的に求められます。GMP証明書や関税優遇措置を受けるための原産地証明書など、専門的な書類の準備も必要です。
タイのFDAでは禁止成分リストが頻繁に更新されており、最新の規制と成分情報を常に確認する体制の構築が重要となります。
・【ベトナム】Z世代が動かすD2Cとライブコマース市場
ベトナムは、若年層と急速なデジタル化を背景に、ASEANで最も成長著しい市場の一つです。特に美容カテゴリーのEC市場が急拡大しています。
消費の中心はTikTok Shopなどを活用したライブコマースであり、インフルエンサーが紹介する商品をリアルタイムで購入するスタイルが定着しています。この消費行動は、D2Cモデルやオンライン発の新興ブランドにとって非常に有利な環境を生み出しており、デジタルマーケティングを駆使した参入戦略が効果的です。
J-Beautyが優れている点と解消すべき課題
J-Beautyは「高品質」という強みを持つ一方で、K-Beautyの「革新性」やC-Beautyの「価格競争力」との差別化が課題となっています。成功には、製品処方からマーケティング手法まで、現地の気候や文化、デジタル環境に合わせた徹底的なローカライズが不可欠です。
「高品質」という抽象的なイメージを、現地の消費者が抱える具体的な課題を解決する「価値」として能動的に伝えるポジショニング戦略が求められます。その際、日本企業が持つ安全性データ、成分透明性、高温耐性試験や安定試験などの品質基準を可視化して提示することは、ASEAN市場で非常に有効です。
ここでは、競合との比較を通じて、J-Beautyが取るべき戦略について解説します。
・K-BeautyやC-Beautyとの差別化戦略
J-Beautyは「高品質」「専門的」、K-Beautyは「革新性」「トレンド感」、C-Beautyは「価格競争力」と一般的に認識されています。しかし、単に「高品質」を謳うだけでは、価格やトレンドで勝る競合に対抗するのは難しくなっています。
J-Beautyにはライバルを模倣するのではなく、自らの強みである「高品質」をASEAN消費者の具体的な課題を解決する「価値」へと転換し、差別化を図る姿勢が求められます。例えば、敏感肌向けの処方や、高温多湿な環境でも崩れにくいメイクアップなど、機能性を具体的に訴求することが有効です。
・さまざまな視点から製品のローカライズに注力する
「Made in Japan」というブランド力への過信は、ローカライズの軽視に繋がりがちです。製品のローカライズとして、ASEAN地域の高温多湿な気候に適したテクスチャーや処方開発が求められます。べたつきを抑えた使用感や、強い紫外線への対策は必須です。
また、マーケティングのローカライズとして、現地のインフルエンサーの起用や、主要なオンライン決済手段の導入が不可欠です。現地の文化や習慣を深く理解し、消費者のライフスタイルに寄り添った提案を行うことで、ブランドへの共感と信頼を獲得することができます。
・高品質であることをよりアクティブに伝える
J-Beautyの「高品質」という強みを、消費者に「能動的」に伝える必要があります。「高品質」という抽象的な概念を、「熱帯の強い紫外線から肌を守る科学的処方」や「長時間のマスク着用でも肌荒れを防ぐスキンケア」といった、具体的で問題解決志向の価値提案に落とし込むべきです。
さらに、AIによる肌診断など、日本の技術力を活用したパーソナライズ体験の提供は、「品質」を体験可能な「価値」へと転換する有効な戦略となります。デジタル技術を活用し、顧客一人ひとりに最適化されたソリューションを提供することで、ブランドロイヤリティを高めることができます。
国内企業がASEAN市場進出を成功させるためのステップ
市場参入の最初のハードルは、国ごとに異なる複雑な化粧品登録・認証プロセスをクリアすることです。また、ECプラットフォームとSNSを組み合わせたデジタル戦略を構築し、現地の消費者に効果的にリーチする必要があります。
これらを自社のみで行うのは困難な場合が多く、規制対応から販路開拓までをサポートする、信頼できる現地パートナーを見つけることが望ましいです。ここでは、市場進出を成功させるための具体的な3つのステップを紹介します。
・化粧品登録と認証プロセスを理解する
ASEAN市場参入における最大の障壁は、各国の複雑な化粧品登録・認証プロセスです。インドネシアではBPOMへの製品登録とハラル認証、タイではFDAへの製品届出と厳格なラベル表示義務など、国ごとに異なる規制が存在し、頻繁に変更されることもあります。
これらの規制対応は重要な経営課題であり、専門知識とリソースを確保することが市場参入の第一歩となります。現地の規制に精通したコンサルタントやパートナーと連携し、最新の情報を入手しながら、計画的に手続きを進めることが不可欠です。
・デジタルチャネルを攻略するECとSNS戦略
Shopee、Lazada、TikTok Shopなど、国ごとの主要デジタルプラットフォームを攻略することが不可欠です。各プラットフォームの特性を理解し、ターゲット層に合わせたコンテンツ配信やプロモーションを行う必要があります。
現地のインフルエンサーや一般消費者によるレビュー(ユーザー生成コンテンツ)の活用は、消費者の信頼を獲得する上で極めて効果的です。また、オンラインでのブランド認知と、Watsonsのような実店舗での販売を連携させるオムニチャネル戦略も、顧客接点を最大化するために重要性を増しています。
・信頼できる現地パートナーを見つける
規制対応やデジタルチャネル構築を自社単独で行うことは困難であり、信頼できる現地パートナーの存在が成功の鍵を握ります。優れたパートナーは、販売代理店としてだけでなく、規制のナビゲーター、文化の通訳者、市場情報のアンテナという複数の重要な役割を果たします。
一方で、化粧品登録のみを請け負う企業と、実際に販路を持ち販売まで担う企業は役割が異なるため、どの機能を持つパートナーなのか見極めることが不可欠です。
また、現地のOEMメーカーとの提携は、輸送コストの削減や需要変化への迅速な対応を可能にし、サプライチェーンの柔軟性を高める戦略的選択肢となり得るでしょう。展示会などを活用して、自社のビジョンを共有できる最適なパートナーを見つけることが重要です。
日本企業の課題を解消する専門的な展示会
国際的な化粧品専門展示会は、情報収集、パートナー選定、トレンド把握を短期間で効率的に行うための最適なプラットフォームです。多くのキープレイヤーが一堂に会する場では、ネットでは得られないリアルな情報を入手し、具体的なビジネスチャンスを掴むことができます。
展示会への参加効果を最大化するには、明確な目標設定、事前の準備、そして会期後の迅速なフォローアップが不可欠です。ここでは、展示会活用の重要性とその具体的な方法について解説します。
・リアルな展示会が重要視されている
複雑な国際ビジネスにおいて、対面での交流は信頼関係の構築や製品の正確な評価のために不可欠です。オンライン商談も普及しましたが、微妙なニュアンスを伝えたり、製品の質感や香りを体験してもらったりするには、リアルな場が勝ります。
リアルな展示会は、ビジネスパートナー候補と直接会い、製品を五感で確かめ、市場の熱気を肌で感じるための、かけがえのない機会を提供します。現地のバイヤーや専門家と直接対話することで、市場のニーズを深く理解し、製品開発やマーケティング戦略に活かすことができます。
・展示会を最大限に活用し海外展開を加速させる方法
参加前に具体的かつ測定可能な目標を設定し、事前にアポイントを調整することで、会期中の時間を有効に使うことができます。ターゲットとなるバイヤーやパートナーをリストアップし、事前にコンタクトを取っておくことが重要です。
会期中は計画的に商談を進めると同時に、競合の動向分析やセミナーへの参加を通じて、市場の知見を深めます。そして、展示会での出会いを具体的なビジネス成果に繋げるためには、会期後の迅速かつ丁寧なフォローアップが最も重要です。感謝のメールや資料送付をすぐに行い、関係を維持しましょう。
「COSME Week」は課題解決のプラットフォームとなる
日本最大級のBtoB総合美容展「COSME Week」は、ASEAN市場参入の課題を網羅的に解決する戦略的プラットフォームとして機能します。「化粧品開発展(COSME Tech)」では、ハラル対応可能なOEMパートナーなど、製品開発や製造面の課題を解決できる企業が多数出展します。
ASEAN向けOEM相談では、日本で作った処方がそのまま適合するとは限らないため、現地の規制や気候に合わせた処方調整が必要となります。ハラル対応やASEAN規制に強い工場を直接比較できる点も、展示会の大きなメリットとなります。
また、「国際化粧品展」にはASEAN諸国を含む世界中のバイヤーが来場し、効率的な販路開拓が可能です。併せて開催されるセミナーや「化粧品マーケティングEXPO」を通じて、最新トレンドの把握やマーケティング戦略の構築も行えるため、海外進出を目指す企業にとって見逃せない機会となるでしょう。
【記事監修者】
赤星 恵美子(あかぼし えみこ)
化粧品開発コンサルタント
化粧品業界歴20年。大手化粧品メーカーおよびオーガニックコスメブランドにて、商品企画・処方開発・品質管理・コンサルティング営業など幅広い業務に従事。現在は「ELATE COSME WORKS」代表として、企業向けの化粧品開発コンサルティングやマーケティング支援を行うほか、美容・化粧品分野の各種メディア記事の監修も多数手がけている。
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